トイレのらくがき
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私は待っていた、ワクワクするようなことを。
だから今日も家の前のベンチで腰を下ろす。
時刻は午後5時を告げる鐘の音が教えてくれる。
家の前の道は帰宅を急ぐ車で少し混雑する。
私は行き交う車をボンヤリと見つめていた。
突然のクラクションにハッとして振り返る。
そこには黒いシルクハットをかぶり、
黒い英国風スーツを身に纏った老紳士が車の前を横切ろうとしていた。
どうやら老紳士はまっすぐ歩けないらしく、フラフラと斜めに歩いてきた。
私は咄嗟に老紳士の手を取り、歩道まで引っ張ってきた。
全身黒ずくめの老紳士は立派なロマンスグレーの口ひげをたくわえていた。
まるで昔の白黒映画から飛び出してきたような老紳士だ。
老紳士は口ひげを整えながら言った。
「いやいや、どうもありがとう」
私は会釈をして、老紳士の手をそっと離した。
「最近は車が多くなって、歩くのも一苦労です」
また口ひげに手をやる。
しかし、どうにもこうにも様子がおかしい。
私は少し感じる違和感が何なのかじっと考えていた。
そうか、これだ。
老紳士の片方の口ひげだけが異様に短いのだ。
どう見てもおかしい。
私は聞くかどうか迷ったが、思い切って聞いてみた。
「そのおヒゲどうしたのですか?」
老紳士は短い方の口ひげをなでながらこう言った。
「ちょっとした油断からだったんですよ、ええ、普段ならそんなヘマはしないのですけど・・・」
ゆっくりと歌うように話す老紳士の声に私は聞き耳を立てた。
「あれは本当にびっくりしました・・・縁側で昼寝をしていたら、どこかの子供がハサミでチョッキンとね」
「どうもあの日から方向感覚が狂ってしまいましてね、ずいぶんと長くヒゲをはやしてたものですから」
「や、そのうち生えてくるでしょう、ほっほっほっ」
冗談ぽく話す老紳士の言葉が悲しくて私は何も言えなくなった。
そんな私の些細な表情を見逃さなかった老紳士。
「どうか私を哀れみの目で見ないでください、私は上手に歩けないけれど、それでも歩いていけるのです」
老紳士の静かで力強い声が私の心に響いた。
「さて、そろそろ行かないと、仲間が待っているもので」
そう言ってまたフラフラと歩きだした。
あたりはすっかり暗くなっていた。
全身黒ずくめの老紳士はいつしか闇に同化し、夜に溶けこもうとしていた。
目を凝らしてようやく老紳士の姿をとらえた時、初めてその正体がわかった。
老紳士は黒猫だった。
その後姿は頼もしく 、なんだか誇らしげに見えた。
猫の髭を切るって行為は絶対にやっちゃダメなのね。
猫にとって髭は、重要な触覚受容器なんだ。
髭にあたった感覚で狭い場所や、 自分の頭と物体との距離とかを掴みとるんだって。
言わばレーダーみたいなもの。
で、これが狂うと歩けなくなったり、狭い場所に入るとき頭をぶつけちゃったりするの。
そんなことを思いながらこの物語を作りました。
無題
何処が?って聞かれると困るんですが、
私はりとるみいさんの物語好きっス!!
ORANGE。様
ただの自己満足なのに、そう言ってもらえるとありがたいです。
初めは猫のヒゲを切ってはいけないみたいなことだけ書いていたのですが
物語にしてみました。